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SPECIAL CONTENTS

ウォールペインター  すまあみさんとの対談

父・山本孝之が創設した福祉村には、病院や高齢者施設だけでなく職員の子どもを預かる保育園もある。この春、その保育園の一部屋が生まれ変わった。虫、花、木、くじら、宇宙……。壁全面に描かれた作品がお披露目された瞬間、子どもはもちろん職員も大喜び! そんな風に子どもも大人も夢中になれる絵を描いてくれたのが、ウォールペインターのすまあみさんだ。すまさんはどんな思いで作品を仕上げてくれたのか。そしてなぜ、僕が保育園という場所にアートを持ち込もうと考えたのか。対談を通してお伝えしたい。
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「病院を中心とした施設だからこそ、明るくてワクワクできるようなところにしたい」(左近)

左近:まずは、すまさんの経歴を改めて伺いたいと思います。すまさんはもともとはまったく別の仕事をされていたんですよね?

すま:そうです。私は16才のときにアメリカに留学して、そのまま向こうでファッションライターをしていました。けれど、次第にキャリアに悩むようになって。そのうちに、もともと絵を描くのが好きだったこと、子ども好きであること、そして、空間に興味があるという自分のこの特性を活かして何かできないかと考えるようになり、最終的にたどり着いたのが、壁に絵を描くウォールペイントの仕事でした。日本に戻ってきたのは2010年で、以来、東京とアメリカを行き来しながら仕事をしています。

左近:僕は2002年、19才のときに単身でヨーロッパに渡って、レーシングドライバーとしてのキャリアを積んできました。今回一緒に仕事をさせていただいて、すまさんとは感性がマッチする部分がたくさんあるなあと感じたんだけれど、お互いに青年期を海外で過ごしているという共通点があるからかもしれない。すまさんの作品を初めて見た瞬間に、「この人なら大丈夫。ぜひお願いしたい」と感じました。

すま:ありがとうございます! 左近さんとの出会いはとても欧米的で、それがすごく印象に残っています。

左近:2016年の春でしたよね。

すま:私が東京のとあるオフィスで展示会の打ち合わせをしていたときに、ふらっと入ってきたのが左近さんでした。特にあいさつも自己紹介もないまま空いているイスにどかっと座って、デスクに広げていた私の作品を見て「いいね!」って言ってくれたんですよね。

左近:そんなに横柄な感じじゃなかったですよね?(笑) あの日、僕もそのオフィスに用事があって立ち寄ったら、デスクの上に広がっていた作品がたまたま目に入ったんです。ちらっと見えただけなのにとても興味を惹かれて、ぜひお話したいと思った。だから、あれでも話しかけるタイミングを見計らっての登場だったんですよ。

すま:そうだったんですか(笑)。そこからはスムーズに話が進みましたよね。左近さんから福祉村保育園をはじめとする福祉村の話を聞いて「面白そうな施設だな」と思っていたら、「よかったら福祉村保育園を見に来てください」と言ってくださって。

左近:すまさんは「行きます!」と即答してくれましたよね。

すま:アメリカでは、こんな風にふとした出会いがきっかけで新しいプロジェクトが始まることが珍しくありませんでした。左近さんとお会いしてからの流れはそれにすごく似ていて、それで欧米的な出会いだったなあと思ったんです。

左近:あの頃ちょうど保育園の壁の修繕をしようという話が出ていて、非常にいいタイミングだったんです。僕がすまさんに壁画をお願いした話をすると、「どうして保育園にアーティストの作品を展示するの?」と聞かれることが少なくないんですが、そもそも、福祉村は昔からアートが根付いている場所なんです。障がい者の方やお年寄りが絵を描いたり、陶芸をしたりという活動をしていて、それがリハビリの一貫にもなっています。

すま:そうなんだ。

左近:僕の父でもある山本理事長には「感性が豊かであれば人生も豊かになる」という理念があって、もう何十年も前からアート活動をリハビリに取り入れています。僕自身も理事長の理念には強く共感していますし、また、病院を中心とした施設だからこそ、明るくてワクワクできるようなところにしたいと思っていました。特に、保育園は未来を担う子どもたちが育つ場所ですから、子どもたちの感性を刺激できるような空間にしたい。そう考えてすまさんに依頼したんですが、こうやって作品を改めて見て、大正解だったと確信しています。

「壁を360度1周使った作品を描けるのだと思うと、武者震いがしました」(すま)

すま:私は仕事を依頼されたらまず、クライアントにどんな絵を希望するのかを聞きます。アメリカのクライアントはたいてい、「子どもたちが完全に理解できる絵じゃなくてもいい」と言うんです。物語の途中の絵でもいいし、子どもたちに説明できない絵でもかまわない、というスタンスで、コンセプトに余白がある。一方、日本のクライアントの多くはわかりやすい絵を希望します。子どもたちに「これ何の絵?」と聞かれたら、「〇〇の絵だよ」と説明できる絵を描いてほしいと言うんです。

左近:その違いはすごくわかる気がします。

すま:でも、左近さんは、「どうせならダイナミックにいきましょう。すまさんの好きにやってください」と言ってくれましたよね。このときも欧米的だなあと感じたんです。私、東京ディズニーランドのアトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」が大好きなんですよ。あのイッツ・ア・スモールワールドのデザインを手がけたのは、メアリー・ブレアというアメリカの芸術家で、彼女は、初期のディズニー映画のカラースタイリングも担当した人です。左近さんに「好きにやっていい」と言われたときは、「ここでなら、尊敬するメアリー・ブレアと、大好きなイッツ・ア・スモールワールドへのオマージュを盛り込める!」とすごく嬉しかったです。

左近:すまさんが感じた日本と欧米の違いは、ほかのアーティストからもよく聞きます。絵に限らず音楽やダンスなんかもそうですよね。日本は、決まった枠組みのなかで答えを見つけるのが得意です。でも、コンテンポラリーダンスのように、「これは△△なダンスで、××を表現しています」という具合にわかりやすい説明ができないものは評価されにくい。一般の人たちも、わからないものは敬遠しがちです。

すま:そうですね。

左近:けれど、社会構造が変わりつつある今、決まった枠組みのなかで答えを探すだけでは限界があるのではないかと僕は思うんです。だから、これからの時代を生きる子どもたちには、「わかる」「わからない」という基準ではなく、「自分が素敵だと感じるかどうか」という基準で判断できるようになってほしいし、そうした判断基準を持つためには、自由な発想力や感性を磨く機会が必要なのではないでしょうか。今回、僕がすまさんに「好きにやってください」とお願いしたのは、すまさんの作品が保育園の子どもたちにとって発想力や感性を磨くいい機会になればいいなあと考えたから。そしてもう一つ、アーティストであるすまさん自身に楽しんで描いてもらいたかった、というのもあります。アーティスト本人が楽しんでつくったものが一番いい作品だと思うし、見る人にも作品の素晴らしさが伝わりやすいと思うんです。

すま:左近さんは好きにしていいと言ってくださったけど、ラフを見せる際は不安もありました。どこまで好きにしていいのかな?と。そこで、壁を360度1周使って大きなモチーフを描く最も冒険的なA案と、それほどでもないB案とC案の3パターンのラフを用意しました。そうしたら、左近さんはA案で即決でしたよね。

左近:僕はひと目見てA案がいいと思いました。ただ、僕の独断では決められない。保育園の園長に相談して、園長が気に入らない場合はあきらめるしかないなあと考えていました。ところが、園長も「私はできればA案がいいです!」と言ってくれて。僕がすまさんに「A案でお願いします」とお伝えしたとき、どう感じました?

すま:「A案でやっていいんだ!」ってすごく嬉しかったですね。壁を360度1周使った作品を描けるのだと思うと、武者震いがしました(笑)

「すまさんとのやりとりは、子どもたちの心にこれからもずっと残るだろうなと思います」(左近)

左近:今回、作品をつくるうえで気をつけた点などはありますか?

すま:いくつかあります。色についていえば、保育園という場所柄を考えて、鮮やかだけどうるさくならないよう注意しました。子どもが過ごす場所なので、子どもがずっと興奮してしまうような空間は望ましくありませんから。アメリカではナーサリールーム(子ども部屋)をたくさん手がけてきたので、その経験を踏まえて、保育園という場所にふさわしい配色を心がけたつもりです。それと、事前に保育園の先生から壁に掲示物を貼ることもあると聞いていたので、そこも意識しました。たとえば、大きな木のイラストの周りに子どもたちが描いた絵を貼るとしますよね。そのとき、子どもたちの絵が花や葉っぱみたいに見えて、掲示物も含めてアート作品になったらいいな、とか。

左近:虫のようにミクロなものから、海や宇宙といったマクロなものまで描かれているのもいいですよね。

すま:福祉村保育園があるこの豊橋市は自然が豊かなので、窓から見える風景とその先に広がる景色をすべて描こうと思ったんです。

左近:そうだったんですね。面白いなあ。

すま:壁が一部出っ張っている部分があって、そこをどう使うのかもいろいろと考えました。出っ張っている部分だけを独立した面ととらえて、その面に納まる絵を描くこともできますが、今回はあえて出っ張っている部分と、そうでない部分をまたぐ形で大きなクジラを描いています。壁の凸凹をまたいで描くことで、面白い視覚効果が生まれるのではないかと思って。

左近:すまさんの作品は、すまさんのイラストを壁紙にプリントしてそれを貼る方法と、すまさんに直接手描きしてもらう方法の2種類あるけど、今こうして完成した作品を見ると、手描きで依頼してよかったと感じます。手描きゆえの線のゆらぎとか、微妙な色ムラとか、そのアナログっぽさがいいですよね。福祉村は人と人が接する場所です。だからこそ、デジタルではなく人が描いたという事実を残しておきたかったんです。

すま:私自身も、自分で描いて仕上げるほうが性に合っています。デスクの上で想像力を働かせながらラフを描く時間と、ラフをもとに壁に向かって無心に描く時間。これだけの面積の壁に手描きで描くのってかなりのガテン作業なんですけど、どちらの時間も私にとってはすごく大切で、両方やることでバランスをとっている感じなんです。

左近:おかげで、子どもたちにアーティスト本人と交流するという貴重な体験も提供できました。保育園がオープンしている9時から18時まで、合計7日間にわたって作業をしてもらって、ところどころで子どもたちに作業の様子を見学させてもらったわけだけど、どうでした?

すま:楽しかったー! 子どもたちが見学に来てくれたときに、「何か質問がある人ー!」って聞いたら、たくさんの子たちが「はい!」って手を上げてくれて、いろいろとおしゃべりしました。ピンクの色を指さして「これって何色ですか?」と尋ねてくれた子がいたんですよ。それには「いい質問するなあ」と感激しました。

左近:子どもたちがふだん使っている色鉛筆とかにはない色だもんね。

すま:そうなんです。だから、「これは蛍光の赤に白を混ぜたオレンジ色なんだけど、夕日みたいな色になります」と回答しました。

左近:このやりとりがあった時点で、今回のプロジェクトは成功したといってもいいと思っているんです。アーティストが作業している様子を直に見られて、そのうえ、疑問に直接答えてもらえるなんて体験は滅多にない。すまさんとのやりとりは、子どもたちの心にこれからもずっと残るだろうなと思います。

「この作品が子どもたちの感性を刺激するような存在であればと願っています」(すま)

左近:僕は事前にラフを見ていたし、制作途中も見させもらっていたからどんな仕上がりになるかわかっていたはずなのに、それでも、実際に出来上がった作品を見たときはとてもワクワクしました。子どもたちはきっと僕以上にワクワクしたと思う。すまさんは、自分の作品を見て子どもたちにどう感じてほしいですか?

すま:「私の作品を見て!」という意識はまったくなくて。私の作品は、あくまでも子どもたちが過ごす場所の背景なんです。ただ、その背景にはお城もあればクジラもいて、宇宙にもつながっています。この絵を舞台に、おうちごっことか、キャンプごっことか、想像力を駆使して遊んでくれたら嬉しいですね。ですから、「舞台はつくったよ。自由に遊んでね」という気持ちでしょうか。

左近:確かに、この作品は描いたら終わりではなく、ここからが出発点ですよね。宇宙の絵を舞台にしたらマクロの視点で遊べるし、虫の絵を舞台にしたらミクロの視点で遊べる。それってすごいことだと思うんです。僕は何も、子どもたち全員にアーティストになってほしいわけじゃありません。こうしたアート作品に触れることで、子どもたちの心に何かを残せればいいなあと考えています。

すま:おこがましいけれど、私も、この作品が子どもたちの感性を刺激するような存在であればと願っています。子どもたちがこれから先、「保育園の壁に絵があったよね。あれ面白かった」と思い出してくれて、それで少しでも心が豊かになってくれたら、これほど嬉しいことはありません。

左近:すまさんの作品は、子どもだけじゃなくて福祉村で働く大人たちにも大きな影響を与えられると思う。僕は福祉村の職員にもせっせと絵を見てもらっているんですよ。理事長や僕が抱いている理念を、この作品を通じて感じてもらえるのではないかと考えているからです。日本では、アートというのは美術館に見に行くもの、という意識が強いと思うけれど、ヨーロッパはそうじゃない。たとえば、僕が一時期暮らしいていたスペインのバルセロナは、暮らしのなかに普通にアートがありました。街中に誰でも自由に座れるベンチがあるんだけど、実はそれはあのガウディの設計だったりするんです。アートって、生産性という観点からすると無駄なものかもしれない。じゃあ無駄を一切省いた生活がいいのかといえば、それはそれでつまらないですよね。たとえ生産性がなかったとしても、アートには心と人生を豊かにする力がある。だから、福祉村で過ごす人たちには、生活のなかでいろいろなアートに触れられる機会を持ってほしいと願っています。今回、すまさんに保育園の壁を描いてもらったのはその第一弾です。

すま:次は保育園の玄関ですね。

左近:ゆくゆくは病院のほうもお願いできればと考えています。病院って白一色で無機質なイメージが強いと思うんですけど、福祉村病院はちょっと違います。特に、入院患者さんが暮らしているエリアは壁が真っ白なところはあまりなくて、色や柄のある壁紙を使用しているんです。

すま:それはいいですね。

左近:これも、「患者さんにはできるだけ心穏やかに過ごしてほしい」という理事長の考えに基づいているのですが、デザインは時代や人の感性によって変わるものだから、今という時代に合ったものに少しずつ変えていければと思っています。

すま:壮大なプロジェクトですね。ドキドキします!

左近:これからもよろしくお願いします!

すまあみ
16歳より17年間を北米で過ごす。ニューヨークのFITを卒業後、ファッションライターとして活躍するも、「人を笑顔にする仕事がしたい」と、こども部屋のカスタムペインターに転身。現地にて数々のこども部屋や人気のキッズショップ [POMMENYC][YOYASHOP]のウォールペイントを手掛ける。2010年に日本へ帰国し長女日子(にこ)を出産。
現在ではこども部屋と保育施設の空間ペイントを中心に、阪急うめだ本店キッズフロアのウォールデザインや、銀座ファミリア本店、コードヤードHirooでの個展の開催等、精力的に活躍の場を広げている。また、ファミリアが運営するファミリアプリスクールのアートプログラムディレクターにも就任している。

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