2018年、創設から55年を迎えたさわらびグループ。
この節目に立ち、私たちは「みんなの力でみんなの幸せを」というグループ理念を改めて確認するとともに、「超幸齢社会をデザインする」というミッションを掲げ、さまざまな挑戦を始めました。私たちはその挑戦を“NEXT55”と名付け、これからの高齢化社会において、医療と福祉の両面から日本社会をリードする先進的な存在であり続けるため、日々、努力を重ねています。
2018年4月7日、穂の国とよはし芸術劇場プラットにおいて、さわらびグループは「事業戦略発表会2018」を開催。いま一度、グループのミッションを職員全員で共有し、今後の方向性を明確にしました。
まずは、さわらびグループの組織改変についての発表を行いました。
私、山本左近は統括本部長の職からCEO(Chief Executive Officer)兼、DEO(Design Executive Officer)へ変更。CEO、つまり最高経営責任者として、事業の方向性を明確化して長期的な経営方針を示すとともに、DEOとして、事業の創造性を指揮します。
そして、業務の最高執行責任者であるCOO(Chief Operating Officer)に白川洋之、テクノロジーの管理・ 推進の中心となるCTO(Chief Technical Officer)に請井政広を指名。さらに、社会福祉法人において、新たに「高齢福祉部」と「社会福祉部」を設置し、高齢福祉部長に太田育郎、社会福祉部長に高橋奈奈を指名しました。
このような組織改変の目的は、医療法人、 社会福祉法人、学校法人の3組織を横断的に結び、意志の疎通をスムーズにして業務の質を向上させること。今後もさわらびグループは常に有機的な組織であり続けるため、さらに組織力の強化を図っていきます。
医療、高齢福祉、障害福祉、教育各部がそれぞれの事業計画を示したのち、 現在、さわらびグループで推進している「Smart Welfare Village構想」について発表。この「Smart Welfare Village構想」は、今後のさわらびグループを考える上で、とても大事なキーワードです。
なぜ、さわらびグループに「スマート化」が必要なのでしょうか。
今後、世界的にますます高齢化が進む社会において、医療と福祉に携わる私たちに何ができるか、そんな大きなテーマを考えたとき、はっきりと見えたのが「医療福祉にテクノロジーを取り入れる」ということでした。
医療や福祉の現場に限らず、社会では高度なテクノロジーが発達しています。現在、最新と言われるテクノロジーも、来年にはもはや跡形もなくなり、新しいものに置き換わっているかもしれません。こうした現代社会において、医療や福祉という、人間の根源的な幸せに直結する分野に従事する私たちも、テクノロジーの進化にまったく無関係でいることはできません。むしろ、テクノロジーの進化は必ず医療福祉のクオリティを上げ、人々の暮らしをもっと豊かにするでしょう。
テクノロジーの進化がますます進む未来で、私たちは一体、どうあるべきか。
医療福祉×テクノロジー。
これが、これからのさわらびグループの次なるヴィジョンであり、テーマでもあります。
現在、さわらびグループは「Smart Welfare Village」を構築するため、いくつかのプロジェクトを企画、進行しています。その中でも中核を担うのが、「SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT」です。
日本では、医療療養や介護療養、特養、老健に入居されている方の中で、摂食障害や嚥下障害を持つ方の割合が4割を超えています。しかし、嚥下障害をもつ方のための介護食は、出来上がった料理をミキサーで粉砕したり、増粘材を加えたりするのが一般的で、味や見た目よりも、飲み込みやすさが最優先になっています。これでは当然、「食」に対する満足度は高まりません。
「もしかしたら、これが最期の食事になるかもしれない。だからこそ、もっとおいしい食事を提供したい」
私には、以前からそんな想いがありました。
そこでさわらびグループは、電通アイソバー株式会社をはじめ他社の協力も得て、介護を必要とされる方にもっとおいしい食事を提供できるよう、プロジェクトを立ち上げました。それが、分子調理メソッドを活用した食プロジェクト「SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT」です。
分子調理とは、食材や調理のプロセスを分子レベルで考える新しい手法で、「科学を使った調理法」ともいわれます。食材を瞬間凍結したり、ムース状にしたり、ゼリー状にしたり、画期的な調理法を取り入れることで、食材を食べやすく、また、飲み込みやすくするのです。すでに今年3月、実証実験を行っており、第1作として、嚥下障害者向けの新しい寿司「にぎらな寿司」を開発しました。
この「SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT」のメリットは、どの人が調理を担当しても、確実に同じおいしさのものを作れるという、再現性の高さにあります。さらに今後はおいしさのレベルを向上させるため、画像認識の技術を用いて、利用者さんや患者さんの完食率の調査を行うことも考えています。こうしたデータを収集することで、利用者さんや患者さんに、本当に喜ばれる介護食を目指していきます。
ここで大事なのは、完食率の調査は味を磨くだけでなく、利用者さんや患者さんのちょっとした異変や体調の変化を知るのにも役立つということです。そのため、「SAWARABI HAPPY FOOD PROJECT」では、こうしたデータを記録して集積し、必要な医療機関や福祉施設とネットワーク上で共有します。この情報共有を可能にするのが、次にご説明するSHIP、すなわちSmart Happiness Information Projectです。
SHIP はすでに、2017年にスタートしているプロジェクトです。簡単にいうと、福祉村の各施設のデータをつなぎ、一括管理を行うもの。たとえば、患者さんや利用者さんの個人情報や既往歴、薬の禁忌、食べものの嗜好、これまでの経歴、出身地など、細かな情報をデータベース化し、ネットワーク上で管理します。入力した情報は自動的にSHIPのデータベースに保存されるので、いつでも、どこからでも、自由に確認できます。そのため、患者さんや利用者さんが新たな治療やケアを開始する場合でも、医師や職員は細かいことを改めてお聞きする必要はありません。スピーディかつスムーズに、治療を始めることができるのです。
現在は基盤となるグランドデザインを設計し、各施設で情報共有を進めている段階であり、今後はまず、福祉村の全施設において、情報の共有と統一化を図ります。福祉村での情報共有が整ったら、今度は順次、近隣の施設へシステムを拡大します。そして、他の医療機関や福祉介護施設とも情報の共有を図ります。
なぜ、私たちは福祉村という垣根を超えて、そとの世界ともSHIPを通して手を結ぼうとしているのか。それは、「予測医学の可能性を追求するため」となるでしょう。
現在、医療や福祉の業界では、「予防」がひとつのキーワードになっています。しかし今後はここからさらに踏み込んで、「予測」がキーワードになるだろうと考えています。 「予測」とは、日常から非日常に変わる瞬間を即時に察知し、状況が深刻化する前に危険を防ぐということであり、リスクを予測するのが早ければ早いほど、それが現実にならないように策を練るのも、小さな努力で事足りるでしょう。これが今後、医療や福祉の業界でますます大きな注目を集めるだろうと考えられている、「予測医療」のあり方です。
現在、福祉村はAIやIoTの力を借りて施設全体をスマート化し、「Smart Welfare Village」を実現しようとしています。今後もこの動きはますます加速し、AIやIoTは福祉村を大きく変えていくでしょう。人と人とのつながりはますますインタラクティブになり、また、モノと人とのつながりも、もっとパーソナルになるでしょう。
しかし、どれだけテクノロジーが進化して、福祉村に最新の医療機器や情報機器が導入されたとしても、それを使うのは、私たち人間だということを忘れてはいけません。幸せの方程式を考え、生み出し、努力することができるのは、人間だけです。テクノロジーは、その方程式通りに回答を求めることには、確かにすぐれているかもしれません。しかし、ゼロの状態から何かを生み出すことはできないのです。
だからこそ、私たち一人一人が想像力を働かせ、より良い福祉村へ進化していこうという意識が必要なのです。「今、問題となっている課題はなんだろう」と考えたり、「その課題を解決するためには、一体何が必要だろう」と想像したりすることが大切なのです。
目の前にある作業を、ただ淡々とこなすだけの「ワーカー」から、データと共生し、機械と協働して、より良い未来を目指して主体的に行動していく医療や福祉の「クリエイター」へ。
そして、作業の積み重ねである「ケアワーク」から、十分な知識と思考力を持って、自発的にソリューションを生み出していく「クリエイティブケア」へ。
こうした変化と成長の先に実現されるのが、真の、「Smart Welfare Village」です。
さわらびグループは、1,100人もの医療と福祉のプロが集まる集団です。一人一人の職員がそれぞれの理想を実現するため、何か行動を起こすことができたら、必ず日本の医療と福祉は変わります。さわらびグループは「医療福祉×テクノロジー」をテーマに、地域の、そして、日本の医療福祉をリードします。これからも「みんなの力で、みんなの幸せを」という理念の実現に向けて、さわらびグループ一丸となり、理想的な超幸齢社会を作っていきましょう。