山本 左近NEWS NO.110

2026.8.24

 

昨年6月、このニュース53号で「コメ」の問題を取り上げました。あのとき書いたのは、価格の高騰です。店頭価格が過去最高を更新し、備蓄米の放出が始まった頃でした。

そして今、地域で聞くのは正反対の声です。「この値段では、来年の米は作れない」。わずか一年余りで、風景は完全に反転しました。

 

《現状》

日本の食料自給率は過去最低の37%。他方でコメの自給率はほぼ100%で、食料安全保障の要であることに変わりはありません。しかし、それを支える現場は細り続けています。基幹的農業従事者はついに100万人を割り込み、15年でおよそ半減しました。

 

《米価はなぜ下がったのか》

昨年の高騰は需給バランスが崩れたことによるものですが、今回の下落はその逆です。高値を受けて作付け意欲が高まり大幅な増産となった結果、民間在庫は過去最大規模まで積み上がりました。

在庫が余れば、価格は下がります。家計には朗報ですが、値下がりは生産者の手取りの減少と表裏一体です。JAが生産者に前払いする概算金は、全国で前年産を2〜4割下回りました。愛知でも「強いショック」との声が上がっています。

 

《「コスト指標」という新しい物差し》

今年から新たに加わった仕組みがあります。4月に全面施行された食料システム法です。

これは単なる取引ルールの整備ではありません。「作る人が費用を回収できなければ、食料は続かない」「再生産可能な価格」という当たり前のことを、制度として認めた法律です。費用を考慮した協議の申出には誠実に応じることを努力義務とし、あわせてコメなどについて、認定団体が生産→集荷→卸売→小売までの費用を積み上げた「コスト指標」を公表する仕組みが設けられました。

ただ、価格を約束するものではなく、「これを下回れば平均的にコスト割れになる」と交渉の場で示すための、共通のものさしです。

精米5kg当たり2,816円。このうち生産段階は玄米60kg当たり2万535円です。

 

《現実が、その指標を下回った》

ところが今年示された概算金の多くが、この生産段階のコスト指標2万535円を下回りました。制度が動き出した最初の年に、制度が示した水準に現実が届かなかったのです。

一方で、コメを作る費用そのものは上がり続けています。肥料、燃料、農薬、農業機械。円安と中東情勢を背景とした資材高が現場を直撃してきました。売る値段は下がり、作る費用は上がる。ここに今回の深刻さがあります。

私自身、素人ながら田んぼに入る中で、一年の手間がどれほどのものか、ほんの少しですが実感しています。その一年分が、価格の変動一つで報われなくなる。それが今、農業で起きていることです。

 

《今後の制度の動き》

制度は二年続けて動きます。本年7月に改正食糧法が成立し「生産者が主体的に需要に応じた生産」が法律に明記されました。令和9年度からは水田政策が見直され、交付金は作物ごとの支援へ転換、5年水張り要件も求められなくなります。

 

《結びに》

食料安全保障は、輸入が止まったときに初めて考えるものではありません。今日、田んぼが一枚守られているかどうかの積み重ねです。

そしてそれは、コメだけの話ではありません。ここ東三河の農家の皆さんからお話を伺っていると、資材が上がり手取りが下がるという構図は、キャベツにも菊にも豚にも、そのまま当てはまります。コメで起きていることは、この地域の農業全体で起きていることでもあります。

現場の声と数字を持って、来年度の予算と政策への議論に臨んでまいります。

 

 

 

左近ニュース110号