山本左近NEWS No67
2025.9.17
このたび退陣を表明した石破総理が、今月7日の緊急会見で繰り返し述べていたのが、「アメリカとの関税をめぐる交渉に一区切りがついたこと」でした。
その合意内容は、先日9日内閣官房のホームページで公表されました。今回は、この合意文書について解説をしていきます。
≪総合的な評価≫
公表された日米の合意文書について、英文も和文も目を通しましたが、結果として、日本が大きな成果を収めたものと考えます。一見、アメリカに有利と見える部分もありますが、実際は、日本の主張がしっかり通った交渉結果でした。
≪自国の産業を守り、米国にも成果を≫
まず大きなポイントは、日本が、自国の農業や産業を守るため、自国の関税を一切下げなかったことです。ほかの国々は、アメリカと交渉する中で「お互いに関税を下げ合う」という形を取りましたが、日本は「こちらは絶対に下げない」と強く主張し続けました。
その結果、日本の農業や産業を守ることに成功したのです。
次に注目すべきは「80兆円規模の投資」と呼ばれる部分です。トランプ大統領は「自分が自由に使えるお金だ」と語っていますが、実際の仕組みはそうではありません。
日本の国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)が関わるため、日本に関係のない事業や一方的に損をするような投資はできない仕組みになっています。最終的な選択を大統領が行う前に、事前に日米の委員会でしっかり調整される仕組みがとられています。大統領には「自分が決めた」と言わせつつ、実際は日本の意向が反映される形になっているのです。
利益の分け方についても工夫があります。表向きは「日本1:アメリカ9」と不利に見えますが、最初の融資回収分は5:5で分けることになっており、日本の損が大きくならないよう配慮されています。交渉はお互いの歩み寄りです。関税交渉で日本が有利に進めた分、投資のところではアメリカが「成果を得た」と言える形にした、というのが実際のところです。
≪日本の負担は最小限に≫
さらに具体的な分野で見ても、日本の負担は最小限に抑えられています。例えば、航空会社によるボーイング機100機の購入は、もともと予定されていた発注で新しい負担はありません。コメの輸入も現行制度の範囲内、防衛装備品も既存の計画内での調達です。そして、アメリカが関税を強化しようとしていた医薬品や半導体について、日本は「最恵国待遇」を勝ち取り、優遇された扱いを確保しました。
≪国内の対応≫
政府は事業者の不安に丁寧に対応しようと、影響を受ける業界や地域への説明会や相談窓口を全国1000カ所に設け、資金繰り支援や販路開拓の後押しを進めています。
今回の交渉は、日本が守るべきものを守りつつ、アメリカにも「勝った」と言わせる余地を残した形です。外交の世界では相手にも顔を立てさせることが重要です。
トランプ大統領が関税政策を重視する現状において、一定の成果を上げたものと考えますが、今後もこの合意が守られ、日本が不利にならないようにしっかりと見ていく必要があります。